妊娠中のお母さんの血液中に検出されるDEHP赤ちゃんの生殖ホルモンとの関係

この研究の背景

DEHPは合成化学物質で、プラスチックに柔軟性を与える添加剤として様々なプラスチック製品に幅広く使われています。DEHPはプラスチック製品から環境中に染み出して放散されることから、空気や水、食品などに含まれます。結果としてヒトの体内に取り込まれるため、健康に対する影響がつよく懸念されています。

動物実験では、母獣を介して胎仔がこのDEHPにさらされると、生まれた仔のテストステロン(T:男性ホルモン)が減り、INSL3(精巣を成熟させるホルモン)も減ることで、生殖機能に影響することが報告されています。ヒトを対象にDEHP濃度を調べたこれまでの研究では、男性において、精子量の減少やT値の低下、卵胞刺激ホルモン(女性ホルモン)値の上昇、精子内DNAの損傷などが観察され、女性においても乳房や陰部、恥毛の発達などの思春期の開始や思春期早発症等が認められています。

この研究の目的

妊娠中のお母さんの血液中DEHP濃度と、出生時の子どもの血液中生殖ホルモン値との関係を調べることです。

どのようにして調べたの?
  1. 札幌近郊に在住していて、2002年7月~2005年10月の期間中に札幌のある病院を受診した妊婦さん(妊娠23~35週)を対象としました。
  2. 妊婦さんから約40mLの血液を採取し、DEHPの主な代謝物濃度を測りました。
  3. 赤ちゃんのへその緒から10~30mLの血液を採取し、各種生殖ホルモン値を測りました。
  4. お母さんの血中DEHP代謝物濃度と、新生児のへその緒中の各種生殖ホルモン値(母児202組)の関連を調べました。
この研究が明らかにしたこと

研究に参加した202名の妊婦さんの平均年齢は29.8歳で、110名(54.5%)が初産婦、残りの92名が経産婦でした。DEHP代謝物は全ての妊婦さんの血液から検出されました。
お母さんの血中DEHP代謝物濃度と、全ての新生児におけるへその緒中のプロゲステロン(P4:女性ホルモン)、プロラクチン(母乳を作るホルモン)、そしてインヒビンB(FSHの働きを抑えるホルモン)の量が反比例しました。さらに、男児ではテストステロン/エストラジオール比、P4、インヒビンB、そしてINSL3値が反比例し、女児ではプロラクチン値が反比例していました。

 

この研究で得られたこと

インヒビンBは主に精巣のセルトリ細胞(精巣を維持する細胞)で作られ、INSL3は主に精巣のライディッヒ細胞(精子の形成に係わる細胞)で作られるので、DEHPが主に男児のセルトリ細胞やライディッヒ細胞の発生に影響を与えていると考えられます。この結果は、各種の動物実験とも一致しており、ヒトでもDEHPが生まれた赤ちゃんの精巣に影響する可能性が示されました。

出典:
Atsuko Araki, Takahiko Mitsui, Chihiro Miyashita, et. al., Association between Maternal Exposure to di(2-ethylhexyl) Phthalate and Reproductive Hormone Levels in Fetal Blood: The Hokkaido Study on Environment and Children’s Health, PLoS One. 2014 Oct 8;9(10):e109039

(2020 IF: 3.240)