妊婦の血液中に検出される有機フッ素化合物の経年変化(2003~2011年)

この研究の背景

有機フッ素化合物(PFAA)は残留性有機汚染物質の一つで、その親水性と疎水性から様々な製品に広く使われています。PFAAはヒトの体内に蓄積されるため、健康への影響が懸念されています。これらが体内に取り込まれる主な経路は、飲料水、魚介類などの食品、食品の包装資材やフッ素加工された調理器具、ハウスダストなどです。
PFAA の中でPFOSとPFOAは、胎盤を通過して胎児に移行することが分かっています。これまでの疫学研究によると、妊娠中にPFOSやPFOAに曝露されると、子どもの出生時の体重が減少することが明らかになっています。また、妊婦の血液中に検出されるPFOSの量と、その子どもが5歳の時の抗体量が反比例することが報告されています。

この研究の目的

北海道在住の妊婦から採取した血液中の11種類のPFAAを分析し、2003~2011年の期間でのこれらの化合物の経年変化を調べました。

どのようにして調べたの?
  1. 北海道内の37か所の産科病院で、妊娠初期に妊婦健診を受診した日本人を対象としました。
  2. 妊娠28~32週に採血を行い、2003~2011年の間の2003年、2005年、2007年、2009年、2011年に参加した妊婦のうちそれぞれ30名(合計150名)の11種類のPFAAを分析しました。
この研究が明らかにしたこと

研究に参加した150名の妊婦の平均年齢は30.3歳(19~40歳)で、半数の75名が初産婦、残りの75名が経産婦でした。調べた11種類のPFAAのうち、PFOA、PFNA、PFDA、PFUnDA、PFOSの5種類が全ての対象者から検出され、PFTrDA (97.3%)、PFHxS (80.7%)、PFDoDA (73.3%)の3種類が大半の対象者から検出されました。残りの3種類の化合物(PFHxA、PFHpA、PFTeDA)も30%未満の対象者で確認されました。

2003~2011年の間でこれらの化合物の1年ごとの変化率を見てみると、PFOSが−8.4%、PFOAが−3.1%、PFAA 11種類の合計で−4.0%と、経年的に減少していました。一方、PFNAが+4.7%、PFDAが+2.4%と、この2種類は経年的に増加していました。

この研究で得られたこと

PFAAのうち、血液中のPFOSは2003年、2005年から2007年にかけて大きく減少しました。この要因は、2002年にアメリカの3M社がPFOSの製造と販売を中止したためと考えられます。それ以降の低下の要因は、2009年に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)でPFOSの製造が禁止されたこと、また、2010年に日本の法律によっても禁止されたことによると考えられます。

その一方で、血液中のPFNAやPFDAが増加している要因は、これらの化合物が体内から排出される時間が非常に長いため、PFOSなどの低下に伴って相対的に増加したものと考えられます。今後の研究で、PFAAのさまざまな種類の化合物による健康への影響を検討していくことが必要です。

 

出典:
Emiko Okada, Ikuko Kashino, Hideyuki Matsuura, et. al., Temporal trends of perfluoroalkyl acids in plasma samples of pregnant women in Hokkaido, Japan, 2003–2011, Environment International 60 (2013) 89–96.

(2020 IF: 9.621)