妊婦の血液中ダイオキシン濃度が高いと、幼児が感染症に罹りやすくなる

この研究の背景

ダイオキシンは人工の化合物で、環境汚染物質(環境ホルモン)に指定されていて、環境に放出されるとなかなか分解しません。また、ダイオキシンは脂肪に溶けやすいため、長年にわたって生物の脂肪組織に蓄積していきます。食物連鎖の頂点に立つヒトは魚介類や肉、卵、乳製品などから知らず知らずのうちにこれら蓄積したダイオキシンを口にしているのです。

中毒事故や職業的に高濃度のダイオキシンやPCBに曝されている妊婦さんたちを対象とした幾つかの研究では、胎児もそれらの物質に汚染されていることが報告されています。また、動物実験でマウスにダイオキシンを与えると、生まれた仔の免疫が抑制されて感染症などに罹りやすくなることが分っています。妊婦が口にしたダイオキシンなどは胎盤を通り抜けて胎児の体内に入ると考えられますので、出産した幼児でもマウスと同じ事が起こるかもしれません。低濃度のダイオキシンであっても、妊娠中の胎児がダイオキシンに曝されると、出産直後の幼児の免疫に影響が出ていると考えられます。

この研究の目的

妊娠中の母親の血液中ダイオキシン濃度が、幼児での生後18ヵ月間のアレルギーや感染症の発現に与える影響について調べることです。

どのようにして調べたの?
  1. 札幌の東豊病院を受診している妊婦さん514名を対象に、2002年7月~2005年9月の期間、調査を行いました。
  2. 妊娠後期に、自己記入式のアンケートに答えてもらい、採血を行いました。
  3. 出産の18ヶ月後に追跡用のアンケートを郵送し、390人(4%)から回答を得ました。
この研究が明らかにしたこと

血中ダイオキシン濃度が測定でき、18ヶ月後の追跡用アンケートの回答が得られた364組の母子を調査しました。お母さんが妊娠中に食べた魚介類や肉の量と、毒性を発揮するダイオキシン量との間に関連性はありませんでした。男児と女児の間に、アレルギー症状の発病率の違いはありませんでした。血中ダイオキシン濃度が低かったお母さんの群と比較すると、ダイオキシン濃度が高かったお母さんの群では、幼児での中耳炎の発症が増加していて、濃度が高いほど発症頻度が増えていました。また、この傾向は男児の方が女児より強いことが分りました。

この研究で得られたこと

妊娠中の血液中ダイオキシン濃度が環境レベルであっても、胎児がそれに晒されると、生後18ヵ月間に中耳炎などの感染症に罹るリスクが、特に男児で増加することが分りました。ダイオキシンの中でも2,3,4,7,8-penta-CDFという化合物がより強く胎児の健康に影響を与えていることも明らかになりました。

 

出典:
Chihiro Miyashita, Seiko Sasaki, Yasuaki Saijo, et. al., Effects of prenatal exposure to dioxin-like compounds on allergies and infections during infancy, Environmental Research 111(2011) 551–558.

(2020 IF: 6.498)