赤ちゃんの出生サイズには、妊婦さんの喫煙と代謝酵素が関係している(1)

この研究の背景

妊婦さんの喫煙はお母さんだけでなく、赤ちゃんにも有害です。妊娠期間中ずっと喫煙をしていると、妊娠合併症や早産、胎児発育遅延のリスクが増えます。

たばこの煙には、ニコチンや一酸化炭素、発がん物質である多環芳香族炭化水素(PAHs) 、N-ニトロソアミンなど4000種以上の有害物質が含まれています。これらの有害物質は肝臓で代謝され、最後は無毒化されて尿と共に体外に排泄されますが、代謝された物質の毒性の強さや無毒化する働きには「遺伝子の型」による個人差があることがわかっています。ヒトの遺伝子は父親と母親から来た二つの対立遺伝子(アレル)で作られていて、両親の対立遺伝子(アレル)の組み合わせで、例えばTT型、CC型、もしくはTC型という遺伝子型になります。妊娠中の喫煙による赤ちゃんへの影響は、お母さんの遺伝子の型によって違いがあるのではといわれています。

この研究の目的

妊娠中の喫煙が胎児の発育に及ぼす影響を遺伝子の要因も含めて調べることです。たばこ煙に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)の代謝に関わっている酵素AHR(遺伝型はGG型、AA型、もしくはGA型)、CYP1A1(遺伝型はTT型、CC型、もしくはTC型)と無毒化に関わっている酵素(GSTs)の一つであるGSTM1について検討しました。

どのようにして調べたの?
  1. 2002年~2004年に札幌東豊病院を受診した妊婦さん(293名)を研究の対象としました。
  2. 妊娠23~35週に自己記入式のアンケートに答えていただきました。
  3. 採血をして妊婦さんのAHR、CYP1A1、GSTM1遺伝子の型を調べました。
  4. 出生時に赤ちゃんのサイズ(身長、体重)を測りました。
この研究が明らかにしたこと

妊娠中に喫煙していた妊婦さんは73名(19.6%)で、1日当たり平均で13.3本のたばこを吸っていました。喫煙した妊婦さんの赤ちゃんは、非喫煙の場合と比べて出生時身長、体重ともに少なくなっていましたが、お母さんの遺伝子の型がAHR遺伝子GG型かCYP1A1遺伝子TC/CC型、あるいはGSTM1遺伝子欠損型の場合はもっと少なくなりました。さらに、AHR遺伝子がGG型でCYP1A1遺伝子がTC/CC型の組み合わせになると、赤ちゃんの体重は315gも少なくなりました。しかし、同じ遺伝子型でも喫煙をしなければ、赤ちゃんの身長と体重に減少はみられませんでした。

この研究で得られたこと

たばこ煙に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)の代謝に関わっている酵素の遺伝型によって、代謝物質の毒性が強くなったり、その物質を無毒化する働きが弱くなったりして、胎児にも影響を及ぼすと考えられます。日本人の約3割は赤ちゃんの出生サイズが小さくなったAHR遺伝子GG型と言われています。また、CYP1A1遺伝子TC/CC型とGSTM1遺伝子欠損型は日本人の約半数になります。しかし、妊娠初期に禁煙すると、お母さんの遺伝型にかかわらず、喫煙しない妊婦さんの赤ちゃんの出生サイズと変わらなくなることがわかっているので、禁煙することは胎児の成長にはとても重要です。

 

出典:
S.Sasaki, T.Kondo, F.Sata, et. al., Maternal smoking during pregnancy and genetic polymorphisms in the Ah receptor, CYP1A1 and GSTM1 affect infant birth size in Japanese subjects, Molecular Human Reproduction Vol.12, No.2 pp. 77–83, 2006.

(2020 IF: 4.025)