この研究の背景
これまでの研究では、母親のカフェイン摂取によって妊娠損失のリスクが高まるのではないかとされていますが、実際のところはよく分っていません。
一方、妊娠はするのですがなかなか正常出産ができない不育症の婦人では、そうではない婦人に比べて、カフェインの代謝物であるパラキサンチンという成分が血液中に多いことが知られています。このパラキサンチンの生成に強く係わっているのが体内で産生されているCYP1A2という酵素です。そして、この酵素を産生するヒト遺伝子のタイプにはA型とC型の2種類があることが分っています。
ヒトの遺伝子は父親と母親から来た二つの対立遺伝子(アレル)で作られています。両親の対立遺伝子(アレル)の組合わせで、遺伝型はAA型、CC型、もしくはAC型となりますが、この内のAA型(ホモ結合)の遺伝子から作られるCYP1A2は、他の遺伝子型よりも強くカフェインを代謝して、パラキサンチンを多く作り出しています。
この研究の目的
カフェインを多く摂っている妊娠女性では不育症のリスクが高待っているのか否かを、遺伝子の要因も含めて検討することです。
どのようにして調べたの?
- 2003年~2004年に、札幌市内に住む妊娠した婦人にアンケート調査を行いました。
- アンケートに回答し、研究に適切な不育症の病歴のある婦人58名(25~43歳)と、病歴のない婦人147名(19~44歳)を選定しました。
- 選定した婦人から採血をしてCYP1A2の遺伝子型を調べ、アンケートの回答から1日当たりのカフェイン摂取量を計算しました。
この研究が明らかにしたこと
AA型のCYP1A2遺伝子を持つ不育症の経歴をある婦人では、カフェイン摂取量が増えるにつれて、リスクが高まる事が示唆されました。1日当たりのカフェイン摂取量が100mg未満の場合の不育症になるリスクを1とすると、100~299mgでは約2倍、300mg以上では約5倍になると考えられます。
一方、その他の型(AC型やCC型)では、1日当たりのカフェイン摂取量に関係なく、不育症のリスクはほぼ一定でした。
この研究で得られたこと
本研究では、カフェインの代謝に関係する酵素の遺伝子とカフェイン摂取量の相互作用、さらには、不育症リスクとの関係を、初めて明らかにしました。ただし、AA型でカフェイン摂取量300mg以上の婦人でも約半数(6/11名)は不育症ではないので、今後の詳細な検討が必要でしょう。
出典:
Fumihiro Sata, Hideto Yamada, Kana Suzuki, et. al., Caffeine intake, CYP1A2 polymorphism and the risk of recurrent pregnancy loss, Mol Hum Reprod. 2005 May;11(5):357-60.
(2020 IF: 4.025)