母さんの身体に入ったフッ素化合物(PFOS)がお腹の赤ちゃんに移行している!

この研究の背景

ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホンアミド(PFOSA)などのフッ素化合物は50年以上に渡って、冷蔵庫の冷却剤や防火剤、接着剤、殺虫剤、化粧品、革製品の保護剤などの成分として幅広く使われてきました。しかし、2000年に米国環境保護庁(EPA)は、年間123万kgのPFOSが消費され、環境や人体に多大な影響を与えている恐れがあると公表すると、米国では2002年に製造が中止となりました。※1

フッ素化合物のPFOSは体内に極めて吸収されやすく、一方で、分解されにくく、体外への排出も遅いため、体内に蓄積されていきます(サルの試験では血中濃度が半分になるのに約200日を要します)※2。妊娠中のラット及びマウスにPFOSを与えた実験では、母獣への毒性、発達毒性、出生後の胎児毒性などが報告されています。

この研究の目的

妊婦の血液中のフッ素化合物(PFOS、PFOA、PFOSA)濃度と臍帯血(出生直後のへその緒の血液)の濃度を測定し、比較検討します。

どのようにして調べたの?
  1. 2003年2~7月に北海道の札幌東豊病院を受診した、妊娠中の被験者15名を対象としました。
  2. 妊娠38~41週の妊婦15名から1回採血しました。
  3. 同妊婦の出産後、速やかに臍の緒から血液を採取しました(15児)。
この研究が明らかにしたこと

この研究は2004年に発表され、お母さんの血液中にフッ素化合物(PFOS)が認められ、さらにそれがおへそを通ってお腹の赤ちゃんに移行していることを、初めて明らかにしました。
PFOSはすべての妊婦(15名:4.9~17.6 ng/mL)およびすべての臍帯血(15児:1.6~5.3 ng/mL)で確認されました。平均すると、臍帯血(胎児)中のPFOS量は母親の約30%でした。一方、PFOAは3名の妊婦(0.5~2.3 ng/mL)でのみ確認され、PFOSAはいずれの妊婦でも臍帯血でも確認されませんでした。

この研究で得られたこと

母親の血中にあるPFOSの一部(約1/3)が胎児に移行していることが解りました。母親と胎児の間には胎盤があって、必要な物質を選別して通過させる「関門」の働きをしています。この働きによって、約2/3のPFOSがブロックされ、胎児には移行していないと考えられます。一方、PFOAとPFOSAは母体で殆ど検出されていないため、更なる検討が必要と考えられます。

※1 日本では、2010年4月からPFOSの製造・輸入・使用等が制限されています。
※2 水質基準逐次改正検討会(2010年度第1回)(H22.7.12)の報告では、ヒト血清中の半減期は5.4年(環境省評価値)とされています。

出典:
Koichi Inoue, Fumio Okada, Rie Ito, et. al., Perfluorooctane Sulfonate (PFOS) and Related Perfluorinated Compounds in Human Maternal and Cord Blood Samples: Assessment of PFOS Exposure in a Susceptible Population during Pregnancy, Environ Health Perspect 112:1204–1207 (2004).

(2020 IF: 9.031)